1. 参政党の主張と欧米右派ポピュリズム政党との比較 (反エスタブリッシュメント・反グローバリズム)
参政党は「日本人ファースト」を掲げ、グローバリズムへの批判や外国人労働者の制限などを主張しており、そのスローガンや姿勢は明らかにトランプ前米大統領の「アメリカ第一(America First)」や欧州の国民保守政党を意識したものです。事実、神谷宗幣代表は演説で「グローバリズム」を批判し、日本に暮らす外国人の増加に強い懸念を示しています。こうしたナショナリズム的・反移民的な主張は、米国のトランプ派やフランスの国民連合(旧・国民戦線)、イタリアの同盟(リーガ)といった欧米の右派ポピュリズムと共通する要素です。いずれもエスタブリッシュメント(既成支配層)への不満を糾合し、「自国第一」を掲げてグローバル化の弊害に訴える点で類似しています。
しかし、日本の参政党と欧米右派政党には重要な相違点も見られます。まず、移民・外国人問題を巡る背景が大きく異なります。欧米では大量の移民流入や産業空洞化(雇用の海外移転)に対する長年の不満がポピュリズム台頭の土壌となりました。例えば米国では不法移民の急増や工場の海外移転が「MAGA」運動(Make America Great Again)の原動力となり、欧州でも失業や犯罪の原因として移民排斥を訴える声が支持を集めました。一方、日本では外国人労働者や移民は欧米ほど多くなく、むしろ深刻な人手不足を背景に不可欠な存在となっています。実際、日本の外国人住民は総人口の約3%に過ぎず、近年は不法滞在者も減少傾向にあります。そのため「外国人が職を奪っている」という欧米で見られるような切実な危機感は日本では希薄です。参政党が訴える「移民による静かなる侵略」という危機感は、多くの場合外国人観光客のマナー問題や不動産購入への不安など文化的摩擦に基づいており、欧米で右派台頭を招いた構造的な失業問題とは性質が異なります。
また、ポピュリズム運動の歴史と支持基盤にも違いがあります。欧米では主流政治が何十年も無視してきた庶民の不満(経済格差や移民問題)が蓄積し、反エリート・反既成政党の怒りがトランプ現象やルペン・サルヴィーニらの躍進につながりました。一方、日本では90年代以降の「失われた時代」ですら有権者が急進的なポピュリストに走ることは少なく、政治的安定志向が強かった歴史があります。これは雇用の安定や社会保障を守ることで政治家が国民の不満の“火種”をある程度抑えてきたためで、ポピュリズムの発火点が日本には存在しにくかったからです。そのため参政党のような右派ポピュリズム政党が台頭するのは、日本では近年になって初めて見られる新現象だと指摘されています。欧州のドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」や英国の「リフォームUK」などと比較されつつも、日本の右派民粋主義は歴史的に支持を広げにくかったため、参政党の躍進は相対的に新しい政治現象と言えます。
さらに、主張の内容や過激度にも差異があります。参政党はワクチン陰謀論や伝統主義的なイデオロギーを色濃く打ち出している点で、欧米の主要右派政党より過激または異質な側面があります。例えば「新型コロナのワクチン反対」や「ガンは第二次大戦後に生まれた病気」「小麦は米国が広めた陰謀で日本食文化を破壊するためのもの」といった陰謀論を唱える発言も報じられており、有権者から信頼を得られるのか疑問視されています。欧米のトランプ派にもQアノン陰謀論を信奉する層は存在しましたが、フランスやイタリアの主要右派政党(RNや同盟)は近年そうした極端な陰謀論よりも反移民・反EUといった政策アジェンダを前面に出しています。参政党は公式綱領でも「天皇を元首に」「教育勅語を尊重」など戦前回帰的な国家観を掲げており、これは欧米には見られない日本独特の保守思想と言えます。一部メディアや団体から「外国人差別だ」「極端な復古主義だ」と批判を受けつつも、そうした主張が従来の自民党支持層の一部にも浸透している点は日本固有の政治文化に根ざしています。
以上のように、参政党は「自国第一」ナショナリズムや反エスタブリッシュメントの潮流において欧米右派政党と共通する部分を持ちながらも、移民問題の深刻度や陰謀論への傾斜、歴史的文脈などで相違点が際立ちます。日本では参政党の台頭を受け「ついに極右ポピュリズムの波が押し寄せるのか」との声も上がりましたが、専門家は「それは考えすぎだ」と述べ、欧米のような大規模民衆運動には直結しないとの見方を示しています。実際問題として、日本では外国人労働力が不可欠であり、犯罪増加や治安悪化も顕著ではないことから、参政党の唱える危機は現実の逼迫度に欠けます。こうした点で参政党は欧米右派ポピュリズムと同質でありながら、日本特有の状況下で現れたハイブリッドな現象と位置付けることができるでしょう。
2. 日本国内の世論動向・支持層の構造と主な支持要因
参政党の神谷宗幣代表が街頭演説やSNSを通じて有権者に訴える姿は、従来の政治家像とは一線を画し、彼の背後には、既存政党に不満を募らせた幅広い層の支持があります。特に注目すべきは、中高年層の不満と若年層の政治参加を同時に掘り起こした点です。
まず、有権者の世代別動向を見ると、参政党は就職氷河期世代に該当する40~50代から厚い支持を得ました。朝日新聞社の出口調査によれば、今回比例区で参政党に投票した人の中心はまさに40~50代であり、この年代は他党では見られない突出した支持傾向を示しました。就職氷河期世代は1990年代後半~2000年代初頭の不況期に社会に出た人々で、非正規雇用や長引く所得停滞など苦しい経験をしてきた層です。彼らは長年の自民党政権下でも経済的恩恵を感じられず、既存政治への不満や「どの党も自分たちを救ってくれない」という失望感を抱いていました。参政党はまさにその「受け皿」となり、「他に選択肢がない」という有権者心理に応えたと指摘されています。実際、与党自民党は長期政権の中で政治資金スキャンダルや物価高対応の失敗により支持離れを起こし、この不満が参政党支持拡大の背景にあります。
一方で参政党は、若年層の支持を得た点でも特筆されます。同党は結党当初からインターネット・SNSを駆使した独自の運動を展開し、「DIY政党(自分たちで作る政党)」を掲げて無関心だった若者を政治参加に引き込みました。神谷氏自身、「既成政治に投票する政党がないならゼロから作る」と呼びかけて2020年に参政党を立ち上げた経緯があり、その草の根的手法は若者の不満と将来への不安に訴求しました。具体的には、参政党はYouTubeやX(旧Twitter)、ライブ配信、メールマガジンなどデジタル媒体を徹底活用し、党幹部が頻繁にライブで政策議論や街頭演説の模様を発信しました。「あなたのスマホの中の政党」を自称し、オフラインの集会とオンライン拡散を組み合わせることで党のメッセージをウイルス的に広めたのです。これにより、「政治は自分に関係ない」と思っていた若者層にもリーチし、参加意識や仲間意識を醸成して支持者のコミュニティを築き上げました。参政党支持者の中には20代・30代も少なくなく、特に他党に魅力を感じない無党派層の若者がネットを通じて参政党に引き寄せられたと分析されています。
参政党の支持拡大要因としては、コロナ後の社会不安と経済的不満が大きな役割を果たしました。2020年の新型コロナウイルス感染拡大以降、日本政府(自民・公明政権)は緊急事態宣言やワクチン政策などで揺れ、対応の遅れや方針転換が相次いだことで国民の不信感が高まりました。こうした中、「政府や専門家は信用できない」といった風潮や、ワクチン接種への懐疑論が一部に広がりました。参政党は早くから反ワクチン的な主張を打ち出し、このコロナ対応への不満層を取り込むことに成功しました。実際、神谷氏自身がワクチンの安全性に疑義を呈したり、「マスクを外そう」と訴える場面もあり、コロナ禍で鬱積した人々の受け皿となった面があります(同党は公式には「ワクチン強制反対」と表現しています)。同時に、コロナ後に顕在化した物価高・経済不満も支持拡大の原動力です。2022年以降、日本ではエネルギー価格や食品価格の高騰が続き、実質賃金が低下する中で生活への不安が強まりました。与党の物価対策が後手に回ったとの批判が高まる中、参政党は「消費税の減税」や「大胆な財政出動による生活支援」などポピュリズム色の強い経済公約を掲げ、有権者の期待を集めました。出口調査では「物価高への不満」が与党離れの最大要因とされており、参政党はその受け皿として躍進したといえます。特に年収が伸び悩む中間層や地方の中小企業経営者、自営業者などが「減税」「経済成長」を訴える参政党に票を投じたとみられます。
メディア利用の傾向も参政党の支持構造に影響しました。既存メディア(テレビ・新聞)に不信感を抱き、ネット上の代替情報に触れる層が支持者に多かったと指摘されています。参政党は主要メディアでの露出が少ない中でも、SNS上で話題を喚起し「ネット世論」を巧みに味方につけました。たとえば、同党はネット番組で民間有識者や他党政治家との対談を配信したり、メールマガジンで支持者向けに定期情報を送るなど、「コンテンツ+組織」型のデジタル戦略を展開しました。これにより支持者との結びつきを強め、既存メディアを介さず直接情報発信するスタイルが確立されています。結果として、テレビよりYouTubeやTwitterで政治情報を得る層(若年層だけでなく中高年のネットユーザーも含む)が参政党のコアな支持層を形成しました。実際、2022年の参院選時にはNHK・日経の世論調査で参政党の支持率が一時7%前後に跳ね上がり、既存の主要野党を上回る場面もあったと報じられています。これは従来の支持政党別の傾向から見ると異例で、従来政治への不満がネット上で急速に組織化されたことを示唆しています。
参政党の支持層を地域的に見ると、都市部を中心に全国に散在している点も特徴です。2025年の参院選では、東京や神奈川など大都市圏の選挙区で候補者を擁立し議席獲得を狙いましたが、こうした都市部で一定の支持を集めました(後述のように東京選挙区で初の議席獲得)。比例代表でも南関東(首都圏)や近畿、九州など幅広いブロックで平均以上の票率を得ており、支持層が特定の地域に偏らず全国的に存在することが分かります。これは参政党が地方の特定組織票ではなく、主に個人の思想信条にもとづく無党派層の積み上げで議席を得ていることを意味します。裏を返せば、従来の地域密着型の支持基盤(地盤)を持たない分、浮動的なネット支持に依存しているとも言え、今後の支持の定着性には不確実性も指摘されています。実際、参政党の支持者には「自民党にも立憲民主党にも失望したので勢いのある参政党に乗り換えた」という層も多く、そうしたプロテスタント投票(抗議票)の受け皿となった面が強いようです。神谷代表自身、「有権者が政策の中身を深く見極めず世論の流れに乗る風潮もある」と述べており、一種のブーム的支持であった可能性も示唆しています。今後、参政党がこの支持を持続可能な組織票に昇華できるか、それとも一過性の現象で終わるかは、同党が陰謀論的主張から脱却し信頼に足る政策能力を示せるかにかかっていると見る向きもあります。
まとめると、参政党の支持層は中年の経済・生活不安層と若年の政治不信層が重なり合った構造と言えます。コロナ禍後の社会不安と物価高・景気停滞への不満が追い風となり、「他に入れる党がない」という消去法的選択で支持を集めました。その背後にはSNS時代ならではの情報伝播とコミュニティ形成があり、既存メディアや旧来型組織動員に頼らないデジタル時代の民意の受け皿が出現したという評価もできます。ただし、その支持は流動的であり、一部には外国人排斥や陰謀論といったセンシティブな主張への共感も含まれるため、今後の政治環境次第で支持の行方が大きく変わる可能性もあります。専門家は「参政党の躍進は有権者の不安の反映だが持続的基盤を築けるかは疑わしい」としており、今後参政党がどこまで日本の政治風土に根付き得るか注視されています。
3. 他党の戦略・得票傾向と参政党躍進の影響(与野党全体へのインパクト)
2025年7月の参院選で参政党が大躍進を遂げたことは、日本の政界地図に大きな変化をもたらしました。他党の選挙戦略や得票動向との関係、および与野党バランスへの影響を順に分析します。
与党陣営(自民党・公明党)への影響: 最大のトピックは、与党・自民党が参議院で過半数割れに追い込まれたことです。石破茂首相率いる自民党と公明党の連立与党は、今回改選の125議席中わずか47議席しか獲得できず、過半数維持に必要な50議席に届きませんでした。この結果、非改選と合わせた参院全体でも与党議席は122議席にとどまり、参議院のコントロールを失う事態となりました。これは自民党にとって13年続いた「与党1強」体制の終焉を意味します。実際、自民党が衆参両院でいずれも少数与党となるのは1955年の結党以来初めての歴史的惨敗であり、「自民党の歴史的敗北」と国内外メディアに報じられました。この要因として、石破政権の物価高対応への批判や指導力不足が挙げられています。有権者の最大の関心事であった生活コスト高騰に対し、自民党が消費税減税など踏み込んだ対策を示さなかったことが「民意の逆風」を招いたと分析されています。米国のシンクタンク関係者も「有権者の大多数はインフレ対策として消費税引き下げを望んでいたが、自民党は反対し、その姿勢が野党側に攻撃の機会を与えた」と指摘しています。こうした与党の失策により参政党や他の野党が支持を伸ばした面は否めません。
参政党の台頭は特に自民党右派の票離れとして表面化しました。石破茂首相は自民党内ではリベラル寄りの政治家であり(かつて故安倍晋三氏と対立した経緯もあります)、首相就任後、党内右派や保守層の一部に物足りなさを感じさせていました。石破氏が討論会で「外国人が日本で暮らすには七面倒くさい日本語や習慣を受け入れる必要がある」と発言した際、保守層から「弱腰だ」と反発が起きたことも象徴的です。その受け皿となったのが参政党であり、自民党の一部保守支持層が参政党へ流出したことで、自民党は従来盤石だった地方の1人区(改選数1の選挙区)でも苦戦を強いられました。共同通信の分析によれば、32ある1人区のほとんどで自民党が接戦に陥り、自民・公明で改選過半数確保は不可能との情勢が20日夜の時点で既定路線になっていたといいます。これは参政党を含む保守系第三極が自民の票を食い荒らした結果とも言えます。実際、選挙区によっては参政党候補が数万票を獲得して自民候補と野党候補の差を縮める要因となりました(参政党候補が当選には至らずとも、自民票を奪った影響は大きい)。こうした結果を受け、自民党内では「石破おろし」の声が高まっています。朝日新聞は「2度続けて選挙に敗北したことで、党内の首相退陣要求が一段と強まる見通しだ」と報じました。石破首相はNHKのインタビューで「厳しい結果を真摯に受け止める。非常に謙虚かつ真剣に対応しなければならない」と述べつつも、続投の意向を示しました。しかし支持率急落(内閣支持率は20%前後まで低下)の中、今後の政権運営は困難が予想されます。参院で多数を失った与党は法案可決に際し野党の協力が不可欠であり、早速石破首相は公明党の斉藤鉄夫代表と対応策を協議するなど、ねじれ国会への対応に追われています。与党側は国民民主党など穏健野党の一部を個別に取り込む可能性も模索していますが、参政党のような急進野党に関しては連立与党への取り込みは現実的でなく、むしろその存在が与党を右方向へ政策シフトさせる圧力として作用する可能性があります。実際、石破政権は選挙戦で外国人政策への司令塔設置を表明するなど、参政党の主張に触発された動きを見せました。今後も参政党が唱える外国人土地購入規制強化や大規模財政出動などに対し、与党がどこまで歩み寄るかが注目されます。
既存野党(立憲民主党・共産党など)への影響: 参院選の結果、従来野党第一党だった立憲民主党(立民)は改選前の22議席からほぼ横ばいか微増(出口調査では18~30議席の範囲で最終的に22議席程度)にとどまりました。立民は改選議席数で国民民主党や参政党に後れを取ることはなかったものの、目立った伸びもなく、一人区では与党に対し善戦しつつも保守票分裂の追い風を十分活かせない選挙区もありました。背景には、立民への政権担当能力への不信や野党第一党としての存在感の希薄さが指摘されます。依然として立民は参院第2党の地位を維持しましたが、野党勢力全体の中での比重は相対的に低下しました。共産党はさらに苦戦し、改選前の11議席から議席を減らす見通しとなりました(出口調査では4~5議席程度)。共産党はかねてより支持層の高齢化や立民との候補者調整による存在感低下に悩んでおり、今回も比例区得票率が過去最低水準に落ち込むなど、参政党など他党台頭の陰で埋没する形となっています。つまり、今回の選挙における野党勢力の伸長はリベラル野党ではなく保守系野党によって主導された格好です。参政党の「日本第一」的な訴えや国民民主の現実路線が有権者の関心を集める一方、立民・共産といった旧来野党は埋没気味となり、野党勢力内での勢力図が変化しました。立民の野田佳彦代表は石破政権に対し内閣不信任案提出も検討しましたが結局見送り、腰の引けた対応との批判も受けています。この立民の「弱腰」ぶりは前述の明治大・井田正道教授の指摘にもある通り、神谷氏の強硬な言動を相対的に“頼もしく”見せる一因となった可能性もあります。結果として参政党の躍進は、既存野党に対しても「もっと毅然とせよ」という圧力となり、立民は今後政権交代を目指す上で国民民主や維新など他党との連携強化を迫られる状況です。
新興・第三極勢力(国民民主・日本維新の会など)との関係: 参政党と並び注目されたのが国民民主党の躍進です。国民民主(玉木雄一郎代表)は改選前わずか4議席でしたが、出口調査では15議席前後をうかがう勢いを示し、実際にも17議席を獲得して改選前の約4倍に議席を増やしました。これは参政党と並んで今回選挙の“大勝組”と言えます。国民民主党は「ガソリン税の一時的ゼロ措置」や「大幅な賃上げ・減税」など具体的な生活支援策を掲げて物価高に苦しむ有権者の支持を集め、特に20代の若年層から支持を得ました。朝日の出口調査によれば、20代有権者の比例投票先として国民民主がトップだったとの分析もあり、これまで無党派だった若者層が国民民主に流れたことが示唆されます。興味深いのは、参政党と国民民主の支持層が一部重複・競合している点です。ある分析では「参政党の急伸は、その半分が国民民主から流入した支持による」とされ、実際神谷代表自身も「国民民主党とは政策が遠いと思わない。今後詰めていける」と発言しています。これは両党が政策面での接近(例えば積極財政や減税志向)を示唆するとともに、参政党支持者の相当数がもともと国民民主を支持・検討していた層である可能性を意味します。参政党はよりナショナリスティックで急進的な色彩を持つ一方、国民民主は穏健保守・現実路線ですが、いずれも自民党から離れた保守層・中道層の受け皿という点で競合関係にあります。今回両党が揃って躍進したことで、野党内の勢力バランスは大きく書き換えられました。特に参議院では、立民22前後、国民民主17、参政党15(※参政党は改選分14議席獲得+非改選1)と、参政党が野党第三党に躍り出た計算になります(日本維新の会の議席数も参院全体で約20前後とみられ、参政党と拮抗)。この結果、野党勢力はリベラル(立民・共産)と保守系(国民・維新・参政)に二極化・細分化する様相を呈しています。
日本維新の会(維新)は、前回参院選(2019年・2022年)で伸長した改革派・第三極政党ですが、今回はやや伸び悩みました。大阪を地盤に持つ維新は改選前12議席(非改選含め18議席)でしたが、出口調査では改選分5議席前後と予測され、大きな躍進とはなりませんでした(最終的な参院全体では20議席弱と、参政党・国民民主と同程度の規模)。維新は行政改革や経済成長戦略を掲げ都市部の無党派層を惹きつけてきましたが、今回は同じく都市部無党派層を狙う参政党や国民民主に票を一部割かれた可能性があります。実際、東京都議選(2025年6月)では参政党が初参戦ながら3議席を得た一方、維新は議席を失っています。参政党が保守ポピュリズム色で支持を拡大したのに対し、維新はどちらかといえば新自由主義的な経済政策を強調するため、支持層に違いはあるものの、両者とも「反自民・非リベラル」という点で一部票田が重なったと考えられます。維新の吉村洋文代表は、参政党について「主張が過激すぎて現実的な改革にはつながらないのではないか」と距離を置く姿勢ですが、今後野党間の主導権争いにおいて維新と参政党がライバル関係になる可能性があります。
そのほか、新顔では日本保守党(2023年結成の右派政党)が比例区で議席を獲得し、初めて国政に進出しました。保守党は得票率わずか2%強ながら3議席を獲得しており、参政党とあわせ右派ミニ政党が複数議席を持つ状況になりました。これは右派票の細分化を示すもので、従来自民党にまとまっていた保守層の票が複数の受け皿に分散していることが読み取れます。一方、れいわ新選組(山本太郎代表)も改選前3議席から議席を増やしました。れいわは左派ポピュリズム政党ですが、今回目立ったのはやはり右派ポピュリズム(参政党)の伸びであり、左派ポピュリズムの伸長は限定的でした。この点も欧米で極右政党が脚光を浴びる一方で左派は伸び悩む傾向と重なります。
総じて、参政党の浮上により日本の政界は「多党化・流動化」が進んだといえます。もはや自民党vs統一野党という単純図式ではなく、与党も野党も複数の勢力が鼎立・競合する時代に入ったと言えるでしょう。与党の自公連立は参院過半数を失ったため、今後は野党からの合流や協力を得て法案を通す「部分連合」「政策ごとの連携」が不可避です。しかし野党側も一枚岩ではなく、立民・国民・維新・参政など政策も志向も異なる政党が乱立しており、政権交代に向けてどのような連携軸が形成されるか予断を許しません。参政党の躍進は、野党勢力内の力学も変えました。立民が単独で政権をうかがうのは難しくなり、国民民主や維新、場合によっては参政党も含めた連立の可能性が論じられています。もっとも参政党は他党との協調より独自路線を貫く可能性が高く、仮に自公政権が少数与党のまま行き詰まれば、国民民主など穏健野党との大連立的解決も現実味を帯びてきます。いずれにせよ参政党という新興勢力の登場によって、保守票が分散し与党が弱体化する一方、野党も多極化しているため、日本政治はかつてない流動期を迎えています。
最後に、参政党躍進の与野党バランスへの質的影響について触れます。参政党は与党・自民党の右派票を奪っただけでなく、政策論争の焦点を右寄りにシフトさせました。例えば移民・外国人政策は本来日本では大きな争点ではありませんでした(NHKの事前調査でも優先課題としてわずか7%の有権者しか挙げていない)。しかし参政党がこの問題を前面に押し出したことで選挙戦では各党が対応を迫られ、石破首相も外国人政策の司令塔設置を公約せざるを得ませんでした。つまり参政党は議論の議題設定能力(アジェンダ・セッティング力)を発揮し、他党の戦略にも影響を与えたのです。これは欧米の右派ポピュリスト政党が主流政治に議題を飲み込ませていく過程と類似しています(例:欧州で極右が躍進すると、大政党も移民規制に舵を切る現象)。日本でも参政党の訴えた外国人土地規制や給付型奨学金の見直しなど、一部「国民生活上の不利益」とされるテーマが主流政治家の議論に上り始めています。もっとも、参政党自体は前述のように陰謀論的主張への傾斜も強いため、既存政党が全面的に連携したり影響を受けたりするには限界があります。しかし有権者の一部が参政党のような極端な訴えにも靡いたという事実は、与野党問わず既存政党に「民意を読み取れ」という警鐘を鳴らしたと言えるでしょう。
4. 欧米右派台頭との比較評価:構造的共通現象か、日本固有の要因か
以上の分析を踏まえると、参政党の躍進は欧米における右派ポピュリズム台頭と構造的に共通する面と、日本固有の政治文化・社会要因による面の両方を併せ持つ現象だと総合評価できます。
共通するのは、グローバリゼーションや既成政治への不満が臨界点に達し、有権者が従来の二大政党に代わる選択肢を求めたという構図です。参政党はエリート支配への反発や「日本人の誇り」「国を取り戻す」といったナショナリスティックなスローガンで支持を集めましたが、これは「自国第一」を掲げたトランプ現象や欧州極右の訴求点と軌を一にします。いずれも既存政党では救われなかった層(低成長で不満を蓄積した中間層や、体制に不信感を抱く層)の怒りや不安を吸い上げる受け皿(アウトレット)として機能しました。また、SNSの活用や扇動的な言葉遣いで大衆の心情に直接訴える政治手法も、世界的なポピュリズム潮流の一部と見なせます。参政党の神谷氏が「トランプ氏の大胆な政治スタイルから影響を受けた」と公言しているように、同党の戦略・レトリックは明らかにグローバルな右派ポピュリズム運動からインスピレーションを得ています。こうした意味で、参政党の躍進は決して日本だけの特異な現象ではなく、世界各国で見られる体制批判の噴出の一形態と言えるでしょう。
しかし同時に、日本固有の要因が参政党台頭に大きく影響しているのも事実です。まず、日本の右派ポピュリズムは長らく不発だったにもかかわらず、なぜ今になって噴出したのかという点です。これは30年近い経済停滞と少子高齢化による将来不安、コロナ禍で噴出した政府不信、そして自民党一強体制の緩み(スキャンダルや派閥抗争の表面化)といった日本社会の文脈抜きには語れません。欧米では既に2010年代に顕在化した現象が、日本では2020年代半ばになってようやく表面化したとも言え、タイムラグがあります。その間、日本では安倍晋三政権に代表されるように保守層を自民党内に吸収する体制が続いてきました。しかし安倍氏の退場(2022年の死去)やコロナ禍による既存秩序の揺らぎが一つの転機となり、「受け皿不在」だった不満層が参政党という新党に一斉に流れ込んだ面があります。これは日本の政治文化である「無党派層の一時的な劇場型ブーム」とも捉えられ、かつての“小泉劇場”や維新ブームにも通じる現象です。ただし参政党の場合、その主張がより急進的で、戦前の国家観や陰謀論まで包含している点で過去のブームとは異質です。この背景には、日本のネット空間で醸成された独特のナショナリズムや反ワクチン思想があると考えられます。欧米の右派が移民やEUといった具体的対象への反発だったのに対し、日本の参政党支持の裏には「目に見えない不安」や「陰謀的な世界観」が色濃く、日本社会の不透明な将来への漠然とした危機感が投影されているようにも思われます。これは少子高齢化で先行きが見えないという日本社会特有の心理状況ともリンクしています。
また、日本固有の政党システムも影響しています。日本は長年、与党自民党と弱い野党という構図が続き、有権者が選択肢を欠く状態でした。その結果、「どうせ誰がやっても変わらない」という無力感が広がり、投票率の低迷や無関心層の増大を招いてきました。しかし参政党は「それなら自分たちで政治を変えよう」という直接行動を訴え、政治的無力感に風穴を開けました。これは日本人の草の根民主主義への潜在的な願望を刺激したとも言えます。欧米では二大政党制や政権交代の歴史がある中でポピュリスト政党が台頭しましたが、日本では一強長期政権の停滞感へのカウンターとして登場した点に特殊性があります。このように、参政党の躍進は日本の政治文化の閉塞に対する一種のカタルシスであり、欧米とは異なる文脈で捉える必要があります。
結論として、参政党の大幅な議席増はグローバル化の波に対するローカルな反発という普遍的現象の一端でありつつ、それが具現化した形は極めて日本的と言えます。欧米の右派ポピュリズムと構造的な共通点(反エリート・反移民・ネット活用による扇動)は多く見られるものの、その訴求内容や支持形成の背景には日本ならではの要因(長期停滞と政治不信、陰謀論的傾向、天皇や戦前への言及など)が色濃く反映されています。参政党現象はグローバル潮流の日本版とも評せますが、それを単純になぞらえるだけでは不十分でしょう。むしろ、日本政治の独特な土壌で芽生えた新種のポピュリズムと位置づけ、今後それが一過性のムーブメントで終わるのか、あるいは欧米同様に政治勢力として定着し主流政党に影響を与え続けるのか注視する必要があります。いずれにせよ、参政党の躍進は日本社会に潜在していた不満と不安が表面化した結果であり、それへの対処を誤れば他の新興勢力の台頭も含め日本の政局はさらに流動化するでしょう。参政党躍進は、日本が欧米に倣って右派ポピュリズム時代に突入した兆候であると同時に、日本固有の政治再編(新しい多党化時代)の幕開けでもあるのです。各党がこの民意の変化をどう受け止めるかが、今後の日本政治の行方を左右することになるでしょう。
参考文献・出典:
- ブルームバーグ「参政党は不満の受け皿、MAGA派とは異なる」(2025年7月15日付)
- 半島テレビ(アルジャジーラ)日本語版報道「日本政府失う参院多数、極右政党勢力増強」(2025年7月21日)
- 共同通信(中国語版)「参政党党首の差別的言動、批判呼ぶ」(2025年7月20日)
- 毎日新聞(朝日新聞経由)「参政・神谷代表、街頭演説で差別的発言」(2025年7月18日)
- 朝日新聞「出口調査:参政党に投票したのは就職氷河期の40~50代、国民民主は20代」(2025年7月20日)

